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力匠部屋

捜査本部設置

[2011/12/05]

あたいとゴンは歩道を渡り、数件先の一軒家に向かった。ゴンは大きい体を利用して、ポスト脇にあるインターホンを押す。手慣れているゴンの行動に、あたいは羨ましいのと同時に極度の緊張感が走った。
「あれっゴンちゃんじゃない。それに隣にいるのはノンちゃんだな。耳のピンクリボンが目印だからね。でもどうしたんだい?」
 扉を開いて玄関前に現れたのは、予防接種の時にコミュニティーセンターで会ったあのおじさんだった。あたいにも見覚えがある。
《ウェンディはいるかい》
 ゴンはおじさんの顔辺りまで飛びついて叫んだ。
「わかったわかった。ウェンディだろ。ウェンディ、Come on」
 廊下を全速力で走ってきたウェンディは立ち止まり、あたいと目が合った。
 あたいは直視できずに、ゴンの大きな体に隠れて彼をうかがった。愛しのウェンディ君があたいの目の前にいる。
そんなことはお構いなしにゴンから切り出した。
《ノンちゃん家(ち)の兄貴が車に轢かれたっていうんだ。助けてやってくんないか?》
 あたいはゴンの言葉に同調するようにゴンの背中越しからぺこりと頭を下げた。恥ずかしくて一向に彼と口がきけない。
《ノンちゃん》
 ウェンディ君が、あたいの瞳をじっと見つめて名前を呼んだ。
 いやだ、ひょっとしてあたいは告白されるかも。
《はい》
 あたいは緊張のあまり声が裏返っているのを自分でもわかった。脇の下に大量の汗が吹き出てきた。これって緊張の証。
 ウェンディ君は少しだけ苦笑いを浮かべて言う。
《落ち着くんだノンちゃん、犯人はおれが捕まえてみせる》
 彼の真剣な表情にあたいは見とれていた。彼の優しい心づかいが嬉しかったけれど、一瞬でも彼から告白されると思ったあたいの勘違いにもほどがある。勇気をもって彼に告げる。
《兄貴を轢いた犯人は、あたいがこの目でちゃんと見てるんだ》
《ホシは逃げたようだな。よし、これは轢き逃げ事件だ》 
 刑事みたいに話すウェンディ君の凛々しい姿が格好よかった。あたいはまた彼を惚れ直した。
ゴンが面白がって喋る。
《じゃあこうしよう、捜査本部設置だ。【うだつが上がらない兄貴轢き逃げ事件】というタイトルはどうだ。ほら、よくサスペンスドラマに出てくるだろ、捜査本部に掲げられたあの看板。筆で書かれた立派なやつ。それに仕事がない署長と部下連中が、久し振りに張り切っちゃって頭を悩ませながら考えてるって。そう、踊る大捜査線でもやってたあのやつ。年長のおいらが命名したけど、結構いいネーミングだろ》
《ふざけないでよ》 
 すかさずあたいはゴンに釘を刺した。これは遊びではない。
 頭を掻くゴン。
 口を押さえて笑いをこらえるウェンディ。
 3匹の犬は中村邸を後にした。


力匠部屋~今回の執筆者

名前:T.Y

【趣味】競馬、野球、B級グルメ店開拓
【好きな馬】ジェニュイン(待受画面にしてます)
【好きな物】ビール、ビール、ビール
【好きなロッカー】浜田省吾
【好きな歌】浜省の「I am a father」(私自身父親ではない)
【マイブーム】ウコンのサプリメント摂取