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力匠部屋

事故現場に到着したものの......

[2012/05/23]

兄貴がひき逃げされた事故現場には既に兄貴の姿がなかった。警察官の姿もないけれど、ここは間違いなくあたいがマーキングした香りが残っている。本当にここが事故現場なのかを確認するためにゴールデンレトリバーのゴンは、電柱に近付いて匂いを嗅いだ。すかさずあたいは同じミニチュアダックスフンドのウェンディ君の前に立ちはだかった。さすがに愛しの彼には、あたいの匂いを嗅がせるわけにはいかない。
《これが兄貴の匂い》
 ごまかすようにあたいは首輪をウェンディ君とゴンに嗅がせた。
 兄貴があたいに首輪を巻いた時の匂いが残っているはずだ。
《うえっ酒臭いな。昼間っからビールかよ》
 ゴンは自分の鼻を遠ざけた。前足で両方の鼻の穴を塞いでいる。
 そういえば確かに兄貴は昼ビーしてた。
《ちょっと待てよ。兄貴の匂いを辿っていったっておそらく病院に着くだけだろ》
 もっともなことを話すウェンディ。刑事風に眉間にしわを寄せながら推理している。
《頭いい》
 感心するあたい。ゴンも相槌をうっている。続けてウェンディ君が持論を展開する。
《犯人の足取りを追うのさ。犯人は兄貴に近寄って様子を見たんだったな。ならばこのアスファルトに犯人の匂いが残っているはずだ》
《でもな、色んな匂いが充満してて、これじゃわからんぞ》
 深い溜め息をついて諦めムードのゴン。
 そんなことは一切構わずウェンディ君がアスファルトに鼻をつけて手掛かりを探し始めた。
《ブレーキ痕や指紋もあるみたいだけど、鑑識じゃあるまいし、それは犬のおれ達にはどうすることもできないな》
天を仰ぐウェンディ君。そう簡単にシナリオ通りにいかない。
《ちょっとどいてみな》
 ゴンがウェンディを制してアスファルトを覗き込んだ。
《おれたちにはこの鼻があるからトリックなんて洒落臭え。おいらはこのタイヤの匂いを覚える。ノンちゃんは兄貴の匂い。そんでもってウェンディは犯人とビールの匂い。3匹が揃えば鬼に金棒。毛利元就の三本の矢のごとく......》
《ウェンディ君行こう!》
 あたいはどさくさに紛れてウェンディ君の手を引っ張った。肉球と肉球が触れ合う柔らかい感触。緊張のあまり、あたいの手は汗びっしょりだった。
《ちょっと待ちなさい。それじゃ3本の矢にならないじゃないか》
 置いてきぼりのゴン。あたいとウェンディ君はゴンから逃げるようにして走り続けた。二人だけの時間を邪魔されたくない。愛の逃避行ならこのまま時間が止まってほしかった。《続く》


力匠部屋~今回の執筆者

名前:T.Y

【趣味】競馬、野球、B級グルメ店開拓
【好きな馬】ジェニュイン(待受画面にしてます)
【好きな物】ビール、ビール、ビール
【好きなロッカー】浜田省吾
【好きな歌】浜省の「I am a father」(私自身父親ではない)
【マイブーム】ウコンのサプリメント摂取